つい先日、とある大手チェーン系の回転寿司屋に行った。すると、たまたまとなりに座った80代くらいの老夫婦が、タッチパネル式のメニュー表を眼前にし、無言でずっと固まっていた。タブレットの操作方法がわからず、注文しようにもできない──おそらくがそんな様子であった。そして、その老夫婦は結局のところ、回転しているカピカピになった寿司を2、3皿取って、あまり美味しそうじゃない表情でもぐもぐと食してから、10分も経たずにそのお店を出て行った。
なんか、とてもやるせない気持ちになってしまった。接客にかかる人件費を節約するためのデジタル化が生んだ典型的な弊害である。しかし、 商品価格をなるべく安価に抑え、それなりのオオバコで客の回転率を増やす薄利多売な「回転寿司」という商売においては、こうやって経費削減のために「タッチパネルのメニュー表が使えないホンの一部の高齢層」を切り捨ててしまうのも、一つの経営判断として致し方ない……のかもしれない。
『孤独のグルメ』の原作者である久住昌之氏(64)が、1月18日に自身のTwitterを更新し、こんな苦言を呈していた。
「よく使っていた喫茶店が注文をスマホで卓のQRコード読み込んでやる方式になってて、めんどうくせえ!」
「ウエイターがメニュー持ってきて “注文はこちらからスマホでお願いします” って。今、君に “ホットコーヒー” って口で言えばそれでいいじゃん」
「やな時代になってきた」
これははたして「イマドキのIT化についていけない中高年層の老害的なインネン」の一言で片付けてしまってもよいものなのか?
先にも書いたが、回転寿司屋などのオオバコ系飲食店が注文をタッチパネル式にするのは、まだ理解できる。でも、久住氏が「苦言を呈する」対象としている、たとえばコバコの喫茶店などでタッチパネル……どころか、
「QRコードをわざわざ客のスマホで読み取らせて一杯のホットコーヒーを注文する」
……方式を採用するのはいかがなものなんですかね? ゴメス個人としても……率直に申して久住氏と同様、まったく意味不明だったりする。
「ご注文は?」と直接たずねるより、「注文はこちらからスマホでお願いします」のほうがワード数も3倍近くになってしまう。
あえて店側のメリットを挙げてみるなら「受注管理が機械化できる」……ってとこか? おおよそ、
「客との接触機会が減ることで、給仕する側のストレスも減りますよ~」
……みたいな風に、このサービスと必要ツールを販売する業者から “営業” されたんだろう。ただ、客にそうしたシステムを説明する手間は省けないわけであって、もし、スマホを持っていない客やQRコードをうまく読み取れない客とかが来たら、その対応もより大変になってくる。
私は別に「カスタマーインティマシー(=顧客親密性)」だとか「人と人が直接触れ合う温かみの喪失」云々……と、ややこしいことを言っているわけではない。ただ、「時代の流れ」と、やみくもにデジタル化を推し進める近年の風潮は、ときおり我々客側に不要なストレスを与えている……と憂いでいるだけなのだ。「適材適所」という言葉を今一度……噛み締め直してもらいたい。