約1年ほど前に、脳神経外科の菅原道仁先生との連名で出版した拙著『「モテ」と「非モテ」の脳科学〜おじさんの恋はなぜ報われないのか〜』(ワニブックスPLUS新書)で、私たちは「意中の異性とやりとりする際のLINE術」みたいな、一種の“攻略法”めいた原稿を書かせていただいた。いまだ有象無象状態でネット上に飛び交う、もはや定番となりつつある“恋愛指南”のひとつであるが、そんななかでも自身が犯してきた幾多の過去の失敗から学び、ようやく辿り着いた「LINEやまびこの法則」は我ながら「実戦向け」だと、つい自画自賛してしまうほどの秀逸さゆえ、今一度ここcitrusでも紹介したい。
“やるべきこと”はいたって簡単。1行のLINEには1行のLINEを、10行には10行を。100行には100行を、ハートマーク一個にはハートマーク一個を……なんて風に
「相手のLINEの文字分量や絵文字・顔文字・スタンプの数に自分のLINEを合わせろ」
……といった定則である。同著で菅原先生は、
僕は正直LINEが苦手で、どうしても事務連絡っぽくなってしまうんです。ただ、それは結果として悪くないのかもしれません。おじさんLINEにありがちな、総じて長めでカラフルなメールは、今どきの若い女性に敬遠されがちですから。
(中略)おじさんならではのミステリアスを演じるには「すべてを説明しきらない」ことが大事なんです。そりゃあ、もう大人なので句読点は正確に打ちたいし、起承転結は大事にしたいし、ときには敬語も混ぜて礼儀正しい一面もある男を演じたいし、文面もビジュアル映えさせたいし……そんなこんな考えていたら、フキダシの幅が下手すりゃ10センチぐらいにもなっちゃいますよね。対して若い子たちのLINEはシンプルで、余計な要素はことごとく排除されている……。
(中略)「ありがとう」だとか「ごめんね」という感情の表現自体を削るのではなく、「これこれこうだからありがとう」の「これこれこう」をバッサリ削っちゃえばいい。おじさんが「これこれこう」に、つい執着してしまうのは「言い訳したいから」。単にそれだけです。ヘンに経験があるぶん、「自分が正論を言っている」と、アノ手コノ手を使ってついつい証明したくなる。でも、重要なのは相手がその文面を見てどう感じるか。
その“証明”が「なげ〜」「色が多くて読みづれ〜」と感じられたら、そこでおしまいなわけです。まずは一つのフキダシを3行、いや2行で終わらせる訓練をしてみてください。目安としては新聞の小見出し程度といったところでしょうか。
……なる脳科学的な見地によるロジックを訥々と述べているが、それはたしかに最大公約数的には適確すぎる分析だと言えよう。
ただ、いくら女子高生をはじめとする若い女性全般が、スタンプや絵文字&顔文字や長文や赤色の「?」「!」マークを嫌う傾向があったとしても、文中や文尾にさまざまな装飾を凝らし、句読点もデリケートに挿入しながら壮大な一本の“原稿”に仕立て上げたいという“例外”だって、稀少ながら実在することを忘れてはならない。そういう女子たちには、やはり「長めでカラフルなLINE」を返信したほうが、ウケは良いのだ。
さて。この「LINEやまびこの法則」は恋愛だけではなく、ビジネスにも十分に応用できる定理であることを、今日はつけ加えておこう。
たとえば、あなたが多少理不尽なかたちで上司やお得意先から叱られているシーンをシミュレーションしてほしい。
上司 「オマエはコレコレあーだからダメなんだ!」
あなた「すみません! 私はコレコレあーだったからダメだったんですよね…」
上司 「そもそも、オマエはちゃんと物事を考えながら働いているのか?」
あなた「申し訳ございません。今後はちゃんと物事を考えながら働くよう万全の注意を払うようにいたします!」
上司 「だいたいがだ……(と延々続く小言)」
あなた「わかりました! ご忠告どうもありがとうございました!!(90度のお辞儀)」
最後の〆は、いわばスタンプ代わり。こうやって無駄な言い訳をせず、おうむ返しの返答を繰り返してさえいれば……あなたが被る心理的なダメージも最小限に抑えられ、しかも、本来ヒトとは“怒りの感情”を持続させるのが苦手な生き物であるからして、“叱りの尺”も大なり小なり短縮できるに違いない?