近ごろのドラマは刑事モノや医療モノ……ほか、シリアスな社会派ドラマばかりが目立つため、観る側の“視聴離れ”を呼んでおり、かつてのトレンディドラマのような「お気軽に楽しめるライトなドラマへの待望論」が出始めている──そんなコラムを某ネットメディアが配信していた。実際、この春にはトレンディドラマの金字塔とされる『東京ラブストーリー』のリメイク版が、動画配信サービス『FOD』とAmazon Prime Videoにてスタートするらしい。
たしかに言われてみれば、ざっとテレビを眺めてみても、王道の「トレンディドラマのような〜」、すなわち「恋愛」をテーマにしたドラマがめっきり少なくなった印象は、ある。『相棒』なんかは、回を重ねるごとにストーリーが複雑になってきて、途中でちょっとトイレへオシッコにでも行ってしまっただけでなにがなんだかよくわからない状況になっちゃっているし、去年末に放送された『グランメゾン東京』だって、結局は主人公のキムタクとヒロイン役の鈴木京香が恋仲にまで発展することもなかった。
同コラムは「社会派ドラマ偏重傾向」の理由を、こう分析する。
・社会に対してメッセージを投げかけられる(=社会に対してドラマが担う役割が評価され、制作側のポジションも高くなる)
・「マス向けではない、数字は取れない内容だが、作品自体は一定の称賛を得ている」といったエクスキューズが生まれる(=数字の重圧と戦うテレビマンの“逃げ”の口実になっている)
なかなかに鋭い指摘だと思う。どれも制作サイドの側面的な背景としては「正解」だろう。ただ、もう一つつけ加えるなら、「このご時世、恋愛メインのドラマを制作するのが単純にむずかしくなってきている」のも大きいのではなかろうか。なぜ? 答えは明快。
「恋愛ドラマに厚みやハラハラドキドキの展開をまぶしたいなら、おのずと“浮気”や“不倫”と向き合わざるを得なくなってしまう」
……からである。そして、そんなもんを下手に取り扱ってしまったら最後、コンプラに過剰なアレルギー反応を示すイマドキの視聴者やネット住民からの猛クレームは必至。かといって、“浮気”や“不倫”を全面否定する勧善懲悪的な恋愛ドラマが面白いはずもない。
たとえば、刑事ドラマには“殺人”や“贈賄”や“違法薬物使用”……などのシーンがつきものであるにもかかわらず、「犯罪を助長するドラマを放送するなんてけしからん!」みたいな批判をあまり受けないのは、基本的にこれら一連の行為が「法律で禁止されているから」にほかならず、原則として、それら一連の行為を主役の刑事は「裁く側」として動くから──「人を殺したり賄賂をもらったり覚せい剤を打ったりするのは法に触れる悪いことですよ」といった認識が、いちいち説明しなくても(ほぼ)すべての視聴者のあいだでなされているからだ。
いっぽうの“浮気”や“不倫”は、法で裁けないぶん(※正確には「民事でしか裁けない」ぶん)、視聴者の倫理観にその良し悪しを委ねるしかない。だから、逆の見方をすれば「ツッコミどころ」がいたる箇所に見え隠れしてくる。ならば、いっそのこと「あえてのスルー」を決め込んでおいたほうが無難なのでは……と、テレビ局側が判断してしまうのも無理はなかろう。
ここ10年ほど、恋愛系の執筆依頼が私もめっきり減ってきた。年齢的なものもあるは承知だが、下衆な表現を使えば「女を落とす」「女をヒーヒー言わせる」ことをゴールとする恋愛マニュアルやエロをテーマとした(トレンディドラマをも含む)“肉食型”のコンテンツは、もはやメディア上で成立しづらい“腫れ物”となり果てているのかもしれない。