1年間に日本国内で出版されたものから優れた絵本を顕彰する『第25回日本絵本賞』で、歌ネタ系を得意とするお笑いユニット『田中上野』の田中光(絵本作家の名義は「たなかひかる」)が描いた作品『ぱんつさん』が日本絵本賞を受賞した……らしい。
「日本絵本賞は、日本で出版された絵本をすべて対象にしているので、条件を満たしていれば海外の作家の作品も対象になる。今回も30点のノミネート作品から選ばれただけに、非常に価値がある」と出版関係者も、その受賞を絶賛しているという。
お笑い芸人の絵本作家といえば『えんとつ町のプペル』が大ヒットした『キングコング』の西野亮廣が頭に浮かぶが、はたして“たなかひかる”と“キンコン西野”、どっちの作品のほうがすごくて、優れているのか? とりあえずは「どっちもすごいし、創作物に優劣なんてつけられるはずもない」と前置きしたうえで、あくまで“イラストレーター・ゴメスの個人的な好み”だけから、これら二つの“傑作”を比較してみよう。
まずは結論から。「あくまでの個人的な好み」だけで申せば、私は『ぱんつさん』のほうに軍配を上げたい。
田中光は芸人のみならず、漫画家としてもすでにデビューしており、『サラリーマン山崎シゲル』シリーズは累計30万部を超える大ヒット作となっている……のだそう。不勉強ながら、私はそんな田中の略歴をまったく知らなかったのだけれど、なるほど……極限まで無駄を省いた達者な線や簡略化された色面構成、具象の範囲内での大胆なデフォルメのセンスは、たしかにもはや一端のプロの域──つまり、「量産によって反復練習、“筋トレ”をこなしてきた人」のタッチ、職人技だったりする。
いっぽうの『えんとつ町のプペル』。本を開いてみると、これでもかと言わんばかりの壮大な絵物語が、じつに緻密に描き込まれている。一言で表すなら「圧巻」といったところか? そして、この偏執的とすら呼べるほどの細かいモチーフがかもし出す「圧巻」は、どちらかといえば“子ども”より“大人”に向けた世界観なのではなかろうか……と私は思う。たとえば、アーヴァンにミニマライズされた自分の部屋にインテリアとして飾っておくには、断然『えんとつ町のプペル』だろう。だから、本来は“子ども用”が大前提であるはずの「絵本」としては『ぱんつさん』が、私は「好み」なのだ。繰り返すが、これはあくまで私個人の嗜好にすぎない。
私が福音館書店から絵本の処女作『アイスクリースマス』を出版させていただいた際、担当してくださった編集さんからは
・ 極力シンプルに
・ ごちゃごちゃ感を出すときも空間を大切に
・ 「かわいい」よりは、どこか「気持ち悪さ」を感じる絵を
……と、この3点を徹底的に叩き込まれた。
また、これらの条件を満たしていないイラストは、完成品であっても容赦なく何度もボツにされた。そういう意味で、『ぱんつさん』は「シンプル」「空間」「気持ち悪さ」……すべての要素を兼ねそなえた完璧なキャラクターなのかもしれない。ってなわけで、絵本作家としても息の長い“たなかサン”の今後のご活躍を、心より願っておりますm(_ _)m