サイボウズのテレビCM「がんばるな、ニッポン。」は広告界における英断なのか? 愚挙なのか?

 

『ORICON NEWS』によると、日本中が先の見えないコロナ禍の不安に包まれるなか、「経営者のみなさまへ、通勤をがんばらせることは、必要ですか?」との問いかけで始まるサイボウズのテレビCMが大きな話題を呼んでいる……らしい。そして、

 

「がんばるな、ニッポン。」

 

……という強烈なフレーズで〆られる同CMには、
 

「通勤でつらい思いをしている人に寄り添っている」


 ……ほかの称賛の声から、
 

「『がんばるな』というフレーズにはモヤモヤする」


……ほかの疑問を呈する声まで、さまざまな意見が寄せられているという。

 

サイボウズ株式会社ビジネスマーケティング本部プロダクトブランディングチームの見立てだと、こうした「不必要なところまで、がんばらなくてもいい」といった空気感は、「働き方改革」が盛り上がりはじめた2016年あたりからじわじわと熟成され、このたびの新型コロナショックで一気に蔓延しつつあるのでは……とのこと。たとえば、現在放送中のドラマ『半沢直樹』シリーズ(TBS系)に一部の視聴者が抱く「コレって時代劇だよね?」「そこまで会社が嫌だったら転職すれば?」……みたいな違和感と、素直に「カッコイイ」と受け止められていた第1シーズン(2013年)とのズレにも、そんな時代の変化がかいま見られる……と分析する。

 

では、まず最初にゴメスの忌憚ない感想から。単純に、半端ないインパクトを多くの視聴者に与える、じつに素晴らしい“作品”だと私は思った。このCMを見て、これまで名前は聞いたことあるけど、なにをやっているのかはまったく謎だったサイボウズなる企業が、「クラウドベースのグループウェアや業務改善サービスを軸に、社会のチームワーク向上を支援するのを目指している」ことを、少なくとも私は(ネット検索をしてみて)はじめて知ったわけで、それだけでも相当な広告効果だと言えよう。

 

そもそも私は、昔から「ガンバレ!」と他人から励まされることも、他人を励ますことも、あまり好きじゃなかった。より正確なニュアンスで申せば、「信用できなかった」。今回のキャッチコピーの“元ネタ”である「がんばれ! ニッポン」も、その“頑張り方”の定義のファジーさが、前々からどこか気持ち悪かった。オリンピックを例にすれば、「とにかく日本選手に勝ってほしい」のか、それとも「勝ち負けは関係なくただ全力を出し切ったらいい」のか……? いずれにせよ、友人でも知人でもない相手に、ただ「がんばれ!」と適当な激励の言葉をかけるのは無責任、失礼さえあたるのではないか……と。

 

このタイミングで世に出まわった「がんばるな、ニッポン。」には、「もっと肩の力を抜こうよ」という従来のメッセージ以外に「がんばる」といった、文筆の世界だと絶対に迂闊には使ってはならない安直な表現をやんわり“過去形”とする意味合いも込められている……と、私は大ごとに考える。もはや、やみくもなかたちで口にする「ガンバレ!」には、おまじない的な効能しかないことに、21世紀を生きる我々は、そろそろ気づくべきなのである。