元日本テレビ解説委員で、現在は各メディアでコメンテーターを務める岸田雪子氏が、子育ての身近な悩みや課題を取り上げる新連載「岸田雪子のBloom Room(ブルームルーム)」。親子の笑顔の "つぼみ" を花開かせる小部屋です。今回は、"男性の産休・育休" について考えます。
先日出演させて頂いた「バイキングMORE」(フジテレビ)で、タレントの小坂大魔王さんの「育児休暇取得宣言」の話題が取り上げられました。
11月の第2子出産にあわせて、2週間の育児休暇を取得する予定の小坂さん。男性の育休取得率が7.48%(2019年)しかないニッポンで、一石を投じる行動かと思いきや、小坂さんがTwitterで公表すると「2か月の間違いではないか」など、休む期間が短いという批判が多かった、とのこと。確かに、「妻が理想とする育児休暇の日数は?」とたずねたアンケート調査(明治安田生命)では、「94日」という結果も出ています。
「もっと休んで」という声の背景には、「日ごろ家事もしないのだから、育休くらいちゃんととって!」という妻たちの叫びが込められているように思います。
■出産は命がけ…妻の命と健康を守る「男性産休」
世の男性陣にわかっていただきたいのですが、まず第一に、出産は命がけです。医療が発達した今でも、毎年数十人の妊産婦さんが命を落としているとされています。さらに産後は「うつ」の状態になりやすく、自分を傷つけてしまったり、乳児への虐待につながることもあります。出産後に夫が仕事を休んで妻をサポートすることは、妻の命と健康を守る、という重要な意味があるのです。
もう1つ、出産後の休業は「長い育児のスタートラインを一緒に切る」意義もあります。
一例ですが、我が家の場合。10年ほど前にとった主人の育児休暇は5日間でした。緊急の帝王切開で、「あと10分手術が遅れていたら、母子ともに危険だった」と主治医に言われた出産でしたので、術後も身体はボロボロ。夫婦どちらの両親も遠方&高齢で、頼れるのは主人のみでした。息子は母乳をうまく吸えず、搾乳をしては冷凍し、お腹をすかせたら解凍して哺乳瓶に入れ、抱っこで飲ませることの繰り返し。夜もほとんど眠れない中、主人が夜中に1回ミルクをあげてくれると、「3時間続けて眠れる!」と心底ほっとしたものでした。
初めての子育ては、誰にとっても試練の連続です。その「スタートラインの苦労を一緒に分かち合う体験」は、その後の夫婦喧嘩のブレーキにも、きっと熟年離婚防止にも一役買ってくれるはず、です。
■休んでも「収入が保障される制度」がカギになる
育児を「じぶんごと」と意識して、「手伝う」感覚を卒業する。男性の産休や育休は、その意識改革の1つのきっかけになるでしょう。ただ、男性が「取りたい」と思っただけでは、どうにもならないこともあります。それが、「休むと収入が減る」という現実と、「出世の不安」です。
現状の育児休業制度は、休暇取得後まず半年間は、雇用保険から月給の67%が支払われ、7か月目以降は50%が支給される仕組みです。産休・育休取得を進めるためには、この収入保障の引き上げを検討することが急がれます。
もう1つの壁、「出世への不安」には、経営者側の意識改革が必要です。
日本企業の9割以上を占める中小企業の多くからは、「男性の育休を義務化したら人手不足で困る」などの慎重な声が聞かれます。
ですが、なぜ人手不足か?を考えて頂きたいのです。子どもが生まれても休めない、長時間の勤務が当たり前になっている企業風土が、新しい人材を集める障害の1つになってはいないでしょうか。
発想をがらりと変えて、「育児休暇を取ると出世しやすくなる」「時短勤務の従業員を積極的に管理職に登用する」などを企業の強みとしてアピールすれば、「従業員の人生の豊かさを守る企業」として、優秀な人材が集まるという好循環が生まれるのではないでしょうか。
新型コロナの流行は、私たちの働き方に新しい発想をもたらしました。毎日必ず全員が職場に集まらなくとも働く道があること、1つの職だけでなく副業を持つことの意味も私たちは知りました。家族との時間の大切さに気付いた方も少なくないでしょう。
わが子を夫婦が一緒に育てることが当たり前の社会を作ることは、少子化に歯止めをかける一番の近道にもなるはずです。