我が山田ゴメス事務所『GOMECHAP』には「願わくば書評を書いてください」と、何冊もの書籍が届く。少ないときでも、月に10冊以上もの書籍が郵送されてくる。小説やノンフィクション系のルポモノから、コラム・エッセイ集まで……ジャンルはさまざまだが、一番多いのは、やはり自己啓発を促すビジネス書である。
もちろん、送本されてきたすべての書籍を紹介するほど私はお人好しでもヒマでもないので、私なりに以下のような基準を設定し、このなかから最低でも4つをクリアしている“秀作”のみを、なんらかの媒体で取り上げるようにしている。
(1) 著者に圧倒的な知名度がある(※SEO的に有利という理由のみで)
(2) 構成が読みやすく整理されている
(3) 私の着眼を超えた「法則」などが提唱されている
(4) 私が共感できるロジックが展開されている
(5) 簡単に実践できて、即効性がある
(6) 同じことを何度も繰り返していない(※こうしてページ数を稼いでいる薄っぺらいビジネス書はかなりある)
そして、(ゴメスジャッジで)これらの(2)〜(6)までの5つをクリアしていると、今回ぜひオススメしたいのが「エグゼクティブ・スピーチコーチ」「コミュニケーション・ストラテジスト」との耳慣れない肩書きを持つ岡本純子さんというヒトが、今年の10月30日に出版した2冊目の著書『世界最高の話し方』(東洋経済新報社)だ。
コロナ禍によって、「出社よりもリモートへ」「会議はオンラインで」といった流れが加速しています。今後もその流れは変わらないでしょう。
物理的な距離のある時代だからこそ、人と人との心の距離を縮め、つながりをつくる「コミュニケーション」の重要性が、ますます高まっています。
……と、著者の岡本さんは前置きする。そんななか、「世界のCEOや政治家など、超一流のエリートの話し方」「脳科学・心理学・演劇学など学術的研究に基づくグローバルノウハウ」「記者・コンサルタント、さらに1000人ものエグゼクティブのブレイクスルーを導き出した『コミュニケーションコーチ』としての経験知」を掛け合わせて編み出した「最強の話し方」の全メソッドを「50のルール」に分けて、やさしく伝授する内容になっている。
まず、一文筆業者として猛烈に「共感」できたのが『5つの方法で、13文字程度に「たたむ」』というくだり。かいつまめば「もっとも訴えたい結論やメッセージを、雑誌や新聞の記事にタイトルや見出しをつけるように、インパクトのある強い一言に凝縮する訓練をしてみましょう」ってことである。
新聞の見出しは1行9〜11文字で、2行だと合わせて20文字程度だが、ここは日本最大級のポータルサイト『Yahoo!ニュース』の見出しに合わせて、13文字以内に絞り込む。私なんぞは、コラムや記事を入稿するごとに、ほぼ毎日やっている作業ではあるものの、その際に意識すべきなのは、次の5つなのだという。
(1) たとえ(ありきたりではなく、意外なものに例える)【例】コミュ力は筋肉の如く鍛える
(2) 数字(具体的な数字を入れる)【例】コミュ力の必勝方程式7選
(3) ベネフィット(「相手にとって得すること」がわかる言葉を入れる)【例】コミュ力で生涯年収が2倍に
(4) チカラのある言葉(「最強」「世界一」「神○○」などの強い言葉を掛け合わせる)【例】直伝! 世界最強のコミュ力
(5) 「?→!」(最初は「えっ?」と思わせて、あとで「なるほど!」と思わせる、謎めいた、もしくは扇情的な言葉を入れる)【例】コミュ力はのび太に学べ!
たしかに、どれか一つでも念頭に置いただけで、ずいぶんやりやすくなる。また、3つの「伝えたいこと」を一つにまで“切り捨てる”能力を身につけるためにも格好な「訓練」だと言えよう。
『「ヤッホーの法則」で、自分の「殻」を破ることができる』というくだりは、まさに私の「着眼」を超えた「法則」で、とくに「男は黙って以心伝心」的な道を数十年歩き続けてきた“おじさん”に抜群の効果が見込めるらしい。しかも「簡単に実践」できる。
・とりあえずは、「山登りをして、山頂に着いた」という想定で、「ヤッホー」と3回、叫んでみる。
・1回目は「ド」、2回目は「ミ」、3回目は「ソ」の音程で。音程の正確さにこだわる必要はないが、段階的に上げていく。それとともに声量もあげていく。
・3回目の「ヤッホー」の直後、その音程と声量を保ったまま、プレゼンなどの公の場で話す第一声を発してみる。
ルーティンとすることによって、声のエネルギーとテンションをすぐアップできるクセがつき、これだけであなたの印象は劇的に変わるのだそう。ホンの数妙だけで済む“努力”なので、一度試してみてはいかがだろう?
たとえば、複数参加のリモート会議で全員の視線が自分に集中するなか、「どこを見たらいいの?」と迷って、つい目が泳いでしまう……なんて経験は、私にだって何度もある。そういうとき、役に立つのが『たったひとつだけ変えるなら、間違いなく「アイコンタクト」』というくだり。
欧米人に比べてアイコンタクトの頻度が低い日本人の“それ”は、大きくは
(1) 全員をなめるように見渡す「灯台」方式
(2) 全員を複数のブロックに分け、順番にその「かたまり」に目を向ける「ロボット」方式
(3) ほとんどの時間、スライドを見て話し、聴衆にはお尻しか見えない「見返り美人」方式
(4) 「メトロノーム」のように、右→左と順番に目線を振り向ける「テニスの観客」方式
(5) ずっと下を見て手元の資料を読み上げ、たまに顔を上げる「モグラ叩き」方式
……の5つに分類され、岡本さん曰く、その全部が「間違い」……なんだとか。では、どうすれば? 正解は「キャッチボール」方式。複数の相手と順番にキャッチボールをしていくよう、ひとり一人と確実にしっかりと目線を合わせればいい。これは、私も応用的によく使うテクニックで、たとえば著名人へのインタビューの仕事があって、編集さんが二人にカメラマンさんに……と“聞き手”が複数いたとしよう。はじめは、その著名人は我々初対面の人間全員を「灯台」方式で見渡し、目線が定まらない。でも、じっと強い目力でひたすら相手の眼を見つめ続けていれば、必ずその著名人の目線は私だけに集中するようになる。こうなったらもう勝ちも同然で、インタビューの場のイニシアチブを握ることができる。もし、相手の眼を見つめ続けるのが気恥ずかしいなら、ちょっと下にある鼻を見つめればOK。とにかく「この人は私と話をしている」と相手に思わせることが大切なのである。
他にも、
・「ど」力で、会話の達人に
・相手をあなたのファンにする「みかんほかんの法則」
・「○○○○」の一言で、説得力は倍返し
・聞き手を魅了する「2人のあきらの『カネの法則』」
・30秒で作り、語るbefore/afterストーリー
……etc.と、なかなかにキャッチーな法則やご指南がてんこ盛りなので、ぜひ読んでみてくださいm(__)m
最後に。先日、ここcitrusへとアップしたばかりのコラムに、トヨタ自動車の社長・豊田章男氏が『トヨタイムズ』のCMで見せる「両手を広げて熱弁中、重心は右脚に乗せて、左脚はピンと伸びて、踵をつけてつま先が鋭角状に上を向いている」という独特なスタンディングポーズが面白すぎる……みたいなことを書いた。けれど、アレも岡本さんの言(げん)によれば、
「臆することなく、大きな身振りと笑顔で聴衆を楽しませようとするため、捨て身の“道化”を演じることも厭わない」
……という意味で、相当に高度なコミュニケーション・テクニックであるらしい。星の数ほどに流れるテレビCMのなかから、その豊田社長をネタとしてピックアップした私の眼力も、けっこうなものではないか(笑)?