この4月から産後の職場復帰を果たした、あるいは果たそうという皆さん、おめでとうございます。命がけの出産、そして産前産後をコロナ禍で過ごすことは、並大抵のご苦労ではなかったはずです。感染防止のために親子学級が中止になったり、ご実家に助けを求めることが難しかったり、ママ友パパ友ができにくいという方も少なくありません。特別な環境のもとで、新しい命を育まれるという大仕事にかかるご自分を、まずは思いきり褒めてあげてください。
パンデミックの中での慣らし保育や、復帰後いきなりのリモートワークなど、戸惑うこともあるかもしれませんが、ゆっくりゆっくり。職場という社会とつながりながら、しんどい時には産院や地元の保健センター、心療内科などにも頼ってほしいと思います。
ただでさえ、産後の復職は女性の肩に重荷がかかりがちです。先日、フィギュアスケートの安藤美姫さんが「ママさんアスリートという言葉に、どこか違和感がある」と語ったインタビューが話題になりました。
「出産を経ての復帰は無理」と考えられていたというフィギアスケートの世界は特殊かもしれません。ですが「ママさん」になったことで、それまでとは違う扱われ方をされる自分に、戸惑う人は少なくないでしょう。私が最初に取材したアスリートは柔道の谷亮子さんですが、彼女の「ママでも金」が名言として語り継がれるのも、産後の身体を戻すことのハードルの高さだけではないはずです。出産だけでなく、「育児の担い手もママ」という認識を、知らず知らず社会で共有していることの表れでもあるように思えます。
私の妊娠判明は、14年以上前、日本テレビの夜の帯番組「NEWS ZERO」がスタートする時期と重なりました。当時の上司から、「ZEROのフィールドキャスターをやってくれ」と電話で伝えられたのは、婦人科クリニックの超音波画像で、豆粒状のわが子と初対面したのと同じ日でした。フィールドキャスターというのは、ニュースの発生現場どこにでも駆けつけて生中継リポートをする仕事でしたので、私は上司の言葉に感謝を伝えながらも、引き受けられるかどうか、医師と相談させてくださいと言うしかありませんでした。
結局、国内外への出張が重なるキャスター業は難しいという判断に至り、私はプロデューサーの一人として、新番組「NEWS ZERO」の立ち上げに参画することになりました。2年の産休・育休を経て復帰した後も、「妊娠前のように24時間ガツガツ働ける身ではない」という現実との折り合いの付け方に、試行錯誤の毎日だったことを思い出します。そもそも働き過ぎを反省すべきなのですが、「男性並みに働かねばならぬ」と、常に自分に枷をかけていたのかもしれません。
「働く妻と専業主婦、どちらの幸福度が高いか」という調査記事が、先日Twitterトレンドにもなりました。日本の女性の幸福度を調査した慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センターの調査をもとに、「子どもの有無」を加味して比較したところ、幸福度が高い順に「子どもがいない専業主婦>子どもがいない働く妻>子どもがいる専業主婦>子どもがいる働く妻」と分析できたというのです。「子どもがいると女性の幸福度が下がる」という結論は衝撃的ですが、それは決して、「子どもそのもの」が不幸を招くということではないでしょう。「子育て環境」が女性にとって、いかに過酷なもので、「子育ての負担」が「子どもを持つことの幸せ」を上回ってしまうことを表しているのに過ぎないのです。
少子化は危機的だ、とか、女性活躍を、などと叫ぶ政治家たちは多いです。けれど、育児が女性に偏る現実を変えない限り、少子化は進む一方で、いくら「出産一時金」など現物給付でカネをばらまいたとしても、焼け石に水程度の効果に過ぎないと私は思います。
「ママさん〇〇」という呼び名のように、女性を産前産後で別の生き物のように扱ってきた、社会の(それぞれの職場の)意識の変化が不可欠でしょう。逆に言えば、そう扱わざるを得なかった「男性中心の長時間の働き方」そのものを変えること、そして子育てを支援する居場所を地域に根付かせることで、女性も男性も、「子あり」も「子なし」の生き方も、幸福に近づけることが必要です。「保育園の迎えがあるので早く帰ります」も、「夜間に大学で学び直します」も「親の介護で半休とります」も、フェアに受け入れられる働き方は、リモートワークが必要なコロナ禍にこそ、実現の好機ではないでしょうか。