芸能界きっての「二枚目スター」として、ミステリーの『古畑任三郎』、時代劇の『眠狂四郎』……ほか、数々のヒットドラマに主演した田村正和さんが4月30日午後4時、心不全のため東京都港区の病院で死去していたことが5月18日にわかった。京都府出身で享年は77歳。葬儀・告別式は親族のみで行われたという。
早くもすでに、多くの著名人が田村さんを偲ぶ言葉を公表しているが、そのなかでもひときわ私の胸を打ったのが、同じ年齢である俳優の黒沢年雄(77)が自身のブログに更新した追悼のコメントだ。
「全てにおいて…スターを演じ切った美しい俳優だった…。歩く姿…所作…話し方!何事にも慌てず騒がず…常にマイペース…常に物静かな佇まい…キザが嫌味なく身に付いた稀な方だった…芝居で長い立ち回りの後…僕を介護する場面も…荒い息ひとつ見せない!」
「ある時…新幹線でご一緒した…3時間同じポーズには驚いた!ある意味…スターを演じ切った稀に見るスターだった!」
「美しい俳優」という表現は、じつに的を射た「田村正和評」だと思う。素人の私がテレビを観るかぎりですら、田村さんの一挙手一投足の動きは、頭から爪先まで他の俳優とは次元が違うほどに1ミクロンもスキのない優雅かつ完璧なものであった。
「新幹線で3時間ずっと同じポーズ」というエピソードも、あまりに凄まじい。
「撮影現場ではほとんどNGを出さない」
「『田村チェア』と名付けられた自前のデッキチェアを常に持参していた」
「生活感を出さないため、人前では飲食はしない」
……など、まさに24時間「田村正和」という名の「スター」を演じ続けてきた、俳優としての高いプロ意識を裏付ける数々の“伝説”も語り継がれている。かつて、あのイチローが『古畑任三郎』シリーズに犯人役として登場し、世間の話題をさらったが、もしかすると田村さんのこうした「プロフェッショナルを全うするストイックな姿勢」にイチロー本人が共感したがゆえの、“まさかの役者デビュー”……だったのかもしれない。心よりご冥福をお祈りします。
ところで、5月19日の朝。スポーツ紙が軒並み田村さんの悲報を一面で報じているさなか、「阪神タイガース命!」の『デイリースポーツ』の一面は、昨日「14-3」と大敗をくらったにもかかわらず、
「ロハス 初安打が!! 初弾&初マルチ」
……だった。
サッカーのW杯とかで日本代表が劇的な勝利を飾ったり、オリンピックで誰々が金メダルを獲得したりしたときのような“国民的関心事”が起きた際、ナントカ彗星クラスの確率(?)で目にすることができる貴重な光景であるのだけれど、そんなブレないデイリースポーツの社内方針は、これはこれで素晴らしい……と、惜しみない賛辞を贈りたい。