コロナ禍のなか、あえて「面倒臭さ」を楽しむ若者が急増中? そんなトレンドの代表格である「レコードプレイヤー」の魅力に迫る

 

『週刊プレイボーイ』のネット版『週プレNEWS』が『「めんどうくさい」が新しい!? 若い世代にレコード文化がじわじわ浸透中!!』なるタイトルの記事を配信していた。

 
週プレの取材に応えた、アナログレコードを中心に扱う『HMVレコードショップ渋谷』の店長・野見山実さんによると、

 

 
「もともとは40代から60代の昭和世代がメインの客層でした。ですが最近では10代、20代の方が多く来店するようになり、今では全体の3割ほどに上(のぼ)ります。同時にレコードプレイヤーも数千円から1万円くらいのエントリーモデルが多く売れるようになっています」

 
……とのことで、実際に(週プレ記者が)店内へと訪れた20代に話を聞いてみれば、

 

 
「スピーカー付きの安いレコードプレイヤーを使っているけど満足です。生っぽいサウンドが気持ちいいし、音楽を聴くためにわざわざ何かをするのが新鮮な感覚なんです」(22歳:シンガーソングライター)

 
「レコードプレイヤーにこだわりはないけれど、それでも針を落として音が鳴ると感動しますね」(24歳:配達員)

 
……ほか、一部の特殊なオーディオマニアに限定されない、いわゆる“普通の若者”もがリーズナブルにアナログレコードを楽しんでいるという、リアルな意見が並んでいた。

 
私もじつは、数年前に「レコードプレイヤー」を購入した一人だったりする。もちろん、DJとかが持っている本格的なやつではなく、プレーヤー内にスピーカーが内蔵されているコンパクトなバージョンで、1万円で小銭のお釣りが戻ってくる程度(税込)の価格だった。

 

 

ジャケットからいちいちレコードを抜き出し、それをいちいちプレーヤーに置いて針を落とす……たしかに手間がかかって、やたら面倒臭い。が、そういう“手間”を何度も重ねていくうちに、あらためて以下のような「レコードならでは」の魅力を再確認することができた。

 

 

1.“ながら”で音楽を聴かなくなった

 
かの坂本龍一が、なにかのインタビューで「僕は音楽を聴くときは音楽を聴くことだけに専念します」みたいなことを語っていた。いくつもの手順を踏んで、ようやくに流すレコードプレーヤー発の音楽ゆえ、「仕事をしながら」「ごはんを食べながら」「複数の部屋飲みで雑談をしながら」……聴くのがもったいない。あくまで音楽だけに集中したくなるのである。

 
2.レコードにしかない音源を聴くことができる

 
私がもっとも好む音楽ジャンルは、おもにジャズ、それもブルーノートあたりのゴリゴリ系よりは70~80年代のヨーロッパ系アンビエント、もしくはプログレッシブジャズ……といった、どちらかと言えばクラシックに近い、けっこうマニアックなモノだったりする。じつのところ、その手の作品は、ネット配信はおろかCD化もされていない――「レコードでしか聴けない」ケースが、まだ数多かったりするのだ。

 
3.アルバム内にある“物語”を発見することができる

 
アーティスト側は曲順も熟考したうえで、一枚のアルバムをリリースしている。すぐにシャッフルできてしまうネット配信やCDでは、アーティスト側がアルバムに込めた“物語”が、ずたずたに分解されてしまうのである。

 
4.つい飛ばしてしまいがちな“あまり好きじゃなかった曲”をじっくり聴き直すことができる

 
簡単に“好きな曲”だけをピックアップできてしまうネット配信やCDでは、アルバム内の“あまり好きじゃない曲”をどうしても“飛ばし聴き”しがち……。しかし、そういう“ノーマークの曲”も、レコードであらためて聴いてみたら……案外良かったりすることだって少なくはないのだ。

 
5.とくにベース音が柔らかく、それによるサウンドの一体感がある

 
ネット配信やCDで聴く音楽はどうしてもデジタルっぽく聞こえてしまう。もう少し具体的な表現をするなら、楽器一つひとつの音が別々に聞こえるのである。でも、レコードはそれらすべてがすんなりと溶け込んでいる――とくに中低音を担当するベース音の柔らかさが他の楽器の“つなぎ役”を果たしている……のかもしれない。

 
 6.レコードの傷を拾う音も、また独特の味わい深さを…

 
あのプツップツッ……と定期的に聞こえる“針が飛ぶ音”も一種のスパイスとなり、音源に切ないノスタルジーを加えてくれる。とくにバラード曲のそれは、選曲次第でうっすらと涙さえ浮かべてしまう……。

 
7.女子ウケが意外に悪くない?

 
20代半ばの女子が家に来たとき、驚くくらいレコードプレーヤーに反応していた。聞けば、レコードに針を落とすのが初めてであるらしく(凄まじいジェネレーションギャップ!)、珍しさあまりに何度も何度も同じ行為を繰り返していた。

 
コロナ禍において、否(いや)が応(おう)でも“おうち時間”を長く過ごさざるを得なくなった昨今──「不便」「億劫」「面倒」をあえて満喫するトレンドが確実に浸透しつつある。好みの珈琲豆を入手し、自宅でわざわざその豆をガリガリと挽いてからドリップでゆっくり煎れたコーヒーを堪能したり、とっておきの入浴剤を取り寄せ、自宅の風呂を温泉化してみたり……あと、お一人様キャンプなんかも、こうした「面倒臭いが新しい」ブーム(?)のあらわれなのではなかろうか?