『PRESIDENT Online』が『せっかちな中高年世代とは真逆…イマドキの若者が買い物に求める「意外な要素」』なるタイトルの記事を配信していた。
結論から申してしまうと、この「意外な要素」の正解は「不便さ」だ。
コロナ禍で“退屈時間”が増えたのを機に、Z世代のあいだで新たに台頭してきたのが「お預けニーズ」──欲しい物や買いたい物がワンクリックで購入でき、翌日には手に届く今だからこそ、あえて行動してからその成果を得るまでの「手間=不便なプロセス」をじっくり楽しみたい……といった理屈である。
そして、その“もっとも象徴的な例”として紹介されているヒットアイテムが、2019年末にキヤノンが発売した手のひらサイズの新コンセプトカメラ『iNSPiC REC』──カラビナ付きでデザイン性も高く、フィルムカメラと同様、撮った写真や動画をリアルタイムで確認することはできず、スマホやPCに落として初めて見ることができる仕様らしい。「データ転送」という、本来なら簡単に内蔵できるはずの機能をあえて失くすことによって得られる「ワクワク感」が、Z世代のハートを鷲掴みした……と、本記事は分析する。
つい2ヶ月ほど前。ここcitrusで私は、若者を中心とする「面倒臭さを楽しむ」といったトレンドの代表格として「レコードプレイヤー」にスポットを当てたコラムを寄稿したばかりだが、こうした
「不便さに特化したアイテムで面倒臭さを楽しむムーブメント」
……は、これからも緩やかに、ちまたへと浸透していくのではなかろうか?
ただ、完全に“先祖返り”しているわけでもない。『iNSPiC REC』は、なんだかんだ言って「手順がフィルムカメラ風なだけのデジカメ」だし、“最新”のポータブルレコードプレイヤーはBluetoothがつながり、Wi-Fiでデータを飛ばすことだってできる。ドリップを使用したデリケイトな作業を厭わずに煎れて自宅で飲むコーヒーだって、珈琲豆の購入先はたいがいがサードウェイブ系の、通販にも積極性をもって取り組んでいる先進的なショップだったりする……。
つまりが
「不便さを再現し尽くすのではなく、マイナーな部分でカスタムアップは必須」
……ということで、こうしたムーブメントは、たとえば、ドライブの際カーナビに頼るのをやめて冊子の地図を開いてみたり、旅行先でGoogleマップを使わず、歩いている地元のおじさん・おばさんに道を尋ねてみたりする(※一度鬼怒川旅行中コレをやって、同伴の若い女性に「人にいちいち聞かなくてもググればいいじゃん」と叱られた)……ような「シンプルなレトロ回帰」とはややニュアンスが異なっている気もしなくはない。
いずれにせよ、サービスに利便性のみを追求すればよかった一昔前と比べたら、じつに複雑で厄介なトレンドであり、「次はなにが当たるか?」の予測が途方もなく困難な時代なのではなかろうか。