『DIAMOND online』が、「CAが仕事中に出会った客とのさまざまなやりとりを体験談として語り、そこからいろいろな人生訓を導き出していく」みたいな主旨の連載記事を配信していた。筆者は、かつて国際線チーフパーサーを務めていたという元CAの女性で、今回のテーマは「ナルシスト」。
実はファーストクラスにお乗りになるエグゼクティブには「ナルシスト」が多く存在しています。
……との冒頭文からはじまる「ナルシスト論」のおおよそは、以下のような流れであった。
ある長距離路線のファーストクラスに、上場企業社長でもない著名人でもない、あまり知られていない会社の創業社長がご搭乗されました。
(中略)(そのお客様は)ご搭乗になるやいなや、手荷物をCAに預ける際にご自分のカバンを指差し、「これ、かっこいいでしょ! 」、機内着に着替える際には、「このシャツ、似合うでしょ」などとちょっとした自慢話が続きます。
(中略)繰り返されるナルシストぶりに最初はうんざりしたのですが、会話を進めていくうちに、このお客さまはただの「ナルシスト」ではないと思い始めたのです。
(中略)そのお客様は身の上話になると、「自慢話」のトーンは一変しました。
(中略)「会社がうまくいかなかったとき、下ばかり向いていたんですよ。会社のお金を持ち逃げされた時は万事休す、もうだめだ! 死ぬしかないと真剣に思いました。(後略)」
(中略)「(人間は)開き直って残された最後の力を振り絞ると、不思議と物事が好転していく。人に対しても感謝の気持ちが生まれるのですが、頑張って乗り越えた自分に対して自分で自分を褒めるようになるんです」
(中略)(ここまでの会話から、そのお客様は)死ぬ覚悟でどん底からはい上がり、最悪の状態から事業を立て直した成功者でした。それを素直に表現している自己肯定感の高い、良い意味での「ナルシスト」なのだと感じたのです。
なかなかにイイ話である。「最初はちょっと落としておいてから最後は持ち上げる」といったストーリー展開もメリハリが効いていて、読みごたえがある。
だがしかし……この手の暴露ってえのは、いくら(最後は)褒めているとはいえ、(元)接客業者としては最悪、もっともやってはいけない行為なのではないか……とも正直、思った。
「上場企業社長でもない著名人でもない、あまり知られていない会社の創業社長」って(笑)!? 仮に、↑の記事がたまたま “実例” として登場していた「創業社長」の目に止まったとすれば……その張本人ははたしてどんな気分になるのだろう?
私だったらアンニュイ……を通り越して、背筋がゾッと寒くなる。ファーストクラスってヤツは、こんな風に “客の品定め” をCAからされてしまい、下手すりゃそこで交わした一言一言までがこうやってメディアに晒されるようなおっかない伏魔殿的スポットなのか、と。
百歩譲って、同記事をアップする際、この「創業社長」サンに「あなたとのやりとりを書いてもいいですか? 」と事前許可を取っているのならまだ納得もできるが、
「会社の名前やお仕事内容、そしてどの路線でご一緒したのかも思い出せないほどの印象しかありませんが〜」
……との記述もあったので、おそらく “無許可” なんだろう。
キャバ嬢が女性向けの情報サイトとかで「苦手な客」を暴露するのとはワケが違う。あんなにも目ん玉が飛び出るくらいの高い金を取るのだから、それくらいの守秘義務が不文律的に発生するのは然るべきなのではないか? もちろん「元(CA)」であろうが、もう何年前もの出来事であろうが、 “時効” なんてものは成立しない。
私も過去に何度かファーストクラスを利用したことはあるのだが、こんな風に長い時間CAさんと銀座の高級クラブばりにコミュニケイトした経験は一度もない。もしかすると、服装がよれよれのTシャツに短パン&ゴム草履(※長いフライトに備え、少しでも楽な格好で…との自分なりの配慮から? )……といった “どチンピラ仕立て” だったがゆえ、「この客はご機嫌を取るに値しない客」とジャッジされてしまったのか……と、この記事を読めば、つい訝(いぶか)しんでしまう。
私個人としては、ファーストクラスであろうがエコノミークラスであろうが、それを利用する顧客はすべて、
「ダンボール箱に入っている中身がよくわからない大事な荷物」
……として宅配業者のごとく平等かつ丁寧に……ある意味「無機的な慇懃さ」をもって扱ってもらったほうが、ずっとリラックスできるのだが……???