送迎バスは “保育” ではない、という盲点。相次ぐ置き去り…送迎現場から上がる「車内放置の経験あり」「意識低い」の声に、改善策は。

 

 

東海大学客員教授の岸田雪子氏が子育て周辺の課題を考える連載「Bloom Room」。笑顔の “つぼみ” を花開かせる小部屋です。今回は「送迎バスの置き去り」について。

 

静岡県内の認定こども園で、3歳の女の子が通園バスの車内に取り残されて亡くなった事件は、保護者の悲痛な想いと、園側の無責任な対応との落差に、いたたまれない思いと憤りを禁じ得ません。同時に、「守れたはずの命が、なぜ守られなかったのか」という大きな疑問を残しました。

 

園側の説明によれば、ミスは大きく5つ、重なりました。

 

「子ども全員がバスを降りたことを確認していない」

「車内に残った子どもがいないか、確認していない」

「登園していないのに、登園したとシステムに登録」

「クラス担任が不在に気づいたが、保護者に連絡していない」

「クラス担任がシステム上は登園となっていることに気づいていない」

 

預かる子どもの「所在の確認」という最も基本的な事項が、杜撰な管理下にあったことが伺えます。しかし、この保護者としては当たり前であるはずの「所在の確認」が、現場では必ずしも「当たり前」に行われているとは言いきれない実態を表す調査もあります。

 

自動車部品などを扱う三洋貿易が今年5月に行った調査(20代から60代の267人が回答)によると、幼稚園や保育園バスの送迎担当者のうち7.9%に当たる21人が、「過去に園児だけを残して送迎バスを離れたことがある」と回答。3人は「園児が乗っていることを忘れたままバスを離れた」と答えています。中には「子どもに熱中症の症状があった」との声もあり、静岡や去年の福岡のような事例の背後には、少なからぬリスク事例がある可能性が伺えます。

 

さらに深刻なのは、回答者の半数以上が「今後も、取り残しは発生すると思う」と回答。その理由で最も多いのが「送迎担当者や職員の意識が低いから」と答えていることです。次いで、「人手不足」「登園確認などのルールが形骸化しているから」などがあげられました。

 

大多数の園では、日々大切に子どもを保育されていることはもちろんでしょう。ですが、去年、同様の事件発生後、国が全国に出した「通達」も、今回の事件を防ぐことができなかった事実を鑑みれば、人間のミスを補う「ハード面の予防策」を決断する必要があると私は思います。

 

例えば、バスに生体を検知するセンサーを取り付け、子どもが置き去りにされれば警報音が鳴ったり、登録した機器に通知が届くシステムが、アメリカなどでは導入されています。

しかし、日本ではこうした取り組みは進んでいるとは言えません。

その背景の一つについて、ある自治体の保育担当者に私が取材すると、「送迎バスというのは、いわゆる “保育” には含まれないんですよ」という答えが返ってきました。

いわく、送迎バスは公費で提供される “保育そのもの” ではなく、保育の “付帯サービス” であるため、保育園を設置するための基準にも含まれてはいないし、それぞれの園で問題が起きていないかを定期的にチェックする自治体の検査体制上も、送迎バスは明確な対象とはなっていないというのです。

こうした制度上の曖昧さが、園を運営する側の態勢の不備や、制度の遅れにつながっていないか、検証が必要です。

 

日本は欧米に比べて、子ども関連に支出される予算が少なく、保育士一人がみる子どもの数もOECD諸国の中で最も多いのが実情です。このため、保育士らの負担が大きく、逆に報酬は比較的少ない、という構造的な問題を抱えています。
相次ぐ送迎バス事件は、こうした子育て政策が、いかに軽く扱われてきたかの表れでもあると思えてなりません。

 

 

岸田雪子さんは、子育てと介護のダブルケアの日常を綴ったブログも更新しています。
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