みそラーメン? 塩らーめん?『サッポロ一番』即席麺の「表記ゆれ」は究極まで突き詰めた成果の集大成だった

コラム

山田ゴメス撮影

 

親愛なるcitrus読者の皆さまは、あの袋入り即席麺の『サッポロ一番』が大好きでしょうか? よろしい。「みんな大好きに決まっている!」と勝手に断定して話をすすめることにする。

 

昨今は、「ごま味」だとか「塩とんこつ」だとか「豚骨」だとか……時流にマッチするいろんな味のモノも発売されているみたいだが、『サッポロ一番』シリーズの王道御三家といえば、やはり「しょうゆ味」「みそ味」「塩味」──コレに異論のある御仁は、ほぼ100%いなかろう。ちなみに、私の雑感だと、その人気比率は

 

しょうゆ派:1
みそ派  :4
塩派   :5

 

……といったところ? ドラマ化もされたゲイカップルの日常的な料理風景を描いた大人気漫画『きのう何食べた?』(作画:よしながふみ/講談社)でも、わざわざ一話を割いて、『サッポロ一番』についての“あるあるエピソード”や、美味しい調理法などが紹介されていた。ところが! そんな『サッポロ一番』御三家の「表記がゆれている」という事実について言及した以下のようなツイートが、ネット上で話題になっている……らしい。

 

 

たしかに! 正直、指摘されるまで全然気づきませんでした。つまり「表記ゆれに違和感を覚えないほど『サッポロ一番』が、もはや“ソウルフード”として我々日本人の生活へと自然に馴染みきっている」ってこと……なのか?

 

そして、同ツイートにいち早く目をつけた「関西発のやわらかニュースサイト」であるそうな『まいどなニュース』は、その「表記ゆれ」の理由について製造元の『サンヨー食品』の広報担当にまで問い合わせをしており、

 

「まず前提として、3品それぞれ発売年が異なるという事情があります」(※しょうゆ味:1966年/みそ味:1968年/塩味:1971年)
 
「発売当初より、シリーズとして販売していく計画ではなかったため、それぞれを“ひとつの商品”として、毎回作り上げておりました」

「味わいのイメージを大切にして、商品ロゴをはじめパッケージのデザインを組んでいたため、追加、追加の発売となり、結果的に一貫性のないデザインとなっております」
 
(中略)

「一貫性がないのは不思議ですが、それもサッポロ一番のひとつの特長、魅力であると考えております」

 

……などの、ご丁寧な回答を得ている。

 

文筆業に就く私どもにとって、原稿執筆の、とくに造語や新語の固有名詞を表記する際の「漢字とひらがなとカタカナの配分」は非常に大きな問題である。たとえば、「ちょいわるおやじ」について書かねばならないとき、私はとても困ってしまう。「チョイわるオヤジ」「ちょいワルオヤジ」「チョイワルおやじ」……など。たった8文字の単語でしかないのに、その組み合わせのパターンはそれなりの数にのぼる。「ちょい悪オヤジ」は漢字・ひらがな・カタカナをまんべんなく散らしているものの、「悪」を「あく」と読んでしまいかねない、可読性の悪さがネックとなる。結局もっともメディア上で多く使われているのは、「ちょい」と「おやじ」のひらがなを「ワル」のカタカナで分断する狙いがあると推測される「ちょいワルおやじ」なんだが、ビジュアル的なシャープさに欠ける……という側面は否めない。前出した「きのう何食べた?」も、タイトルを考えるとき、作者のよしながさんや担当編集者は「昨日なに食べた?」「きのうなに食べた?」「きのう何たべた?」……ほか諸々、けっこう頭を悩ませたのではなかろうか。


そうアレコレ考えれば考えるほど、サッポロ一番の「しょうゆ味」「みそラーメン」「塩らーめん」の表記は、なかなかよくできた……いや、「なかなか〜」どころか「完璧な組み合わせ」だと、今更ながらつくづく感心する。

 
まず、最初に発売された『サッポロ一番』の「しょうゆ味」で、『サッポロ一番』を全面にガツンと持ってきて、その名を世に知らしめさせる。「サッポロ」「一番」「しょうゆ」「味」……と、漢字・ひらがな・カタカナのバランスもまんべんなく、見た目も心地良い。

 
「みそラーメン」は、もうコレしかない。「味噌」と表記すれば(=味噌ラーメン)可読性はもちろんのこと、マニアックな香りさえただよい、親近感も一気に失せる。かといって「みそらーめん」「ミソラーメン」では、あまりに間抜けすぎる。

 
さらに、トドメ(?)が「塩らーめん」だ。ただでさえ味の瞬間的インパクトでは「醤油」や「味噌」に劣る「塩」──そのデリケートさをフォローするには「しお(=しおラーメン)」や「シオ(=シオらーめん)」じゃ弱めだったりする。だから漢字で「塩」! しかも「塩ラーメン」より、デザイン性においても、いっそう落差の激しいひらがなの「らーめん」で……なんてことをつらつらとキーボードで打っていると、猛烈に『サッポロ一番』が食べたくなってきた。今日はみそ味にするか塩味でキメるか、それともあえてのしょうゆ味で行くか……こうやって、我々はサンヨー食品サンに(おそらく)一生涯、いくらかの銭をちびちびとペイし続けていくのであった。

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