本当に恐いアルコール依存症…ロックバンドZIGGYのボーカルの壮絶な苦しみとは?
1988年に発売され、その後50万枚を売り上げた「GLORIA」。演奏するのは、ロックバンドZIGGY。そのボーカルが森重樹一、当時24歳。派手なメイクや髪型、そして圧倒的な歌唱力とパワフルなステージ。翌年には武道館ライブも成功させた。そんな彼が......アルコール依存症に。
時に暴力的になり、そしてうつ症状も......。その壮絶な苦しみとは......!?
■いい歌を歌うために始めた酒
森重は本来、真面目で繊細な男だった。地元の高校を優秀な成績で卒業。早稲田大学に入学すると、哲学を学んだ。21歳でZIGGY結成。
バンド活動に対してもいたって真面目。酒を飲み始めたキッカケは......先輩からいい歌を歌うためには睡眠が大切だと勧められたから。
ささいな一言......そして森重は酒を飲んでみた。寝る前に数杯......すると翌日、いつもより声が出た気がした。やがて......ステージに立つ前にも飲むように。程よく酔った状態でのライブは、生真面目な自分から解放されたようで、心地よかった。
次第に昼夜を問わず飲むようになっていった。酒を飲むと、歌詞やメロディーがおりてきた。酒があれば、全てがうまくいくと感じた。まるで魔法のようだった。一方でアルコールは習慣的に摂取すると、耐性ができる。やがて森重は、酔うために更に多くの酒を飲むようになった。そんな中、36歳で結婚。
しかし、酒は増える一方......食事もまともにとらないまま、酒だけで胃を満たす。酒のせいで、記憶を失くすこともしばしば。そして、アルコールは次第に彼の人柄を変えていく。メンバーに対しても些細なことで怒りが爆発する。アルコール依存症になると、感情が抑えられなくなる場合が多い。
実はこの時、脳に異変が起きていた。アルコールの摂取により、理性をつかさどる前頭葉で神経伝達物質の働きが低下する。すると、行動や感情のコントロールが利かなくなってしまうのだ。それが続くと、前頭葉の萎縮を引き起こし、より理性をコントロールできなくなってしまう。
この時、仕事の仲間たちは、森重をただ酒癖が悪いとしか思っていなかった。「依存症」と「そうでない人」との違い......それは飲酒時の行動を制御できるかどうかにある。一旦飲むとやめられなくなったり、飲んではいけない場面でも酒をやめられない人は依存症。また酒が切れると禁断症状が現れる人も、アルコール依存症である。
常に襲う「焦燥感」。悪いことをしているとはわかっていても......酒をやめられない......。後悔にふたをするために、また飲むしかなかった。
■40歳......24時間酔っている状態に
40歳になる頃、アルコールは彼から睡眠をも奪った。不眠もアルコール依存症の大きな症状のひとつ。睡眠がとれずに体が休まらない。そしてブラックアウトするまで飲むようになった。
ライブのステージ上、彼の手には......なんと酒。そして、歌い終わるとステージ上の専用冷蔵庫からまた酒を出す。あるインタビュー映像でも......傍らには酒。24時間酔っている状態だった。
そんな生活が続き2007年、森重に娘が生まれた。しかしこのころ、アルコールのせいで彼はうつ症状が出ていた。飲酒によって、気分の良さを維持していた結果、大量のアルコールを飲まないと気分が沈んでしまうようになったのだ。
娘とまともに遊んでやることもできない。本当は自分もアルコールから逃れたい。しかし、酒が切れると禁断症状が襲ってくる。不快な症状から逃れるためには......結局飲むしかなかった。そうして、24時間飲み続ける日々。さらに、被害妄想が激しくなった。人に見られている恐怖。サングラスが欠かせない。
アルコールに溺れる夫と、慣れない育児......妻も限界だった。妻から離婚を切り出されると、ついに森重は酒との別れを決意。治療を受けるため、心療内科を訪ねた。
■一生向き合い続けるアルコール依存症
病院へ行った森重は医師からは抗酒薬を勧められた。抗酒薬とはアルコールが肝臓で分解される過程で起きる"不快な悪酔い状態"をあえて引き起こさせるもの。
それでも......森重は飲んでしまった。抗酒薬を飲んでいる状態での飲酒は、とてつもない気持ち悪さに襲われる。魔法だった酒はそこにもう存在しなくなった。
誰もがなりうる「アルコール依存症」。実はある衝撃的な事実がある。アルコール依存症というのは、脳の中にお酒を飲むとコントロールが利かなくなるという回路が出来上がってしまい、その回路は一生なくならない。何年も酒を断っていても、再び飲むことによってその回路はすぐ動き始めてしまうのだ。
アルコール依存症に詳しい重盛憲司医師によると、通院、投薬と並んで大事な治療方法があるという。それは自助グループに参加するということ。励ましあってやめていくという事以外にも、それぞれが人との接し方や、普段の行動の仕方で、(酒に頼ってしまう)自分の思考や感情に気づく。それがお酒をやめ続けるための大事なポイントなのだという。
現在なんと300万人近くいるといわれるアルコール依存症とその予備軍。酒が強い人ほど、アルコールを体内に摂取する量が多くなるため、要注意だという。
今日まで10年近い断酒に成功している森重。彼を支えているのは......家族、友人、仕事仲間。たくさんの人たちが自分の病気に理解し、協力してくれている。彼はこれからも、アルコール依存症と向き合いながら歌い続けていく。(2018年11月13日 ON AIR)
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