『幽☆遊☆白書』鬼才・冨樫義博氏の「いつでも主人公を殺してやるぞ」発言検証してみた
アニメも大人気で発行部数約5000万部を誇るバトル漫画『幽☆遊☆白書』。
一度死んでしまった主人公・浦飯幽助は様々な出来事を経て生き返り、その後、霊界探偵として妖怪絡みの事件などを解決していくというストーリー。暗黒武術会といった妖怪たちが集う団体戦の大会に幽助らが出場するなど、王道のバトル展開も熱い作品でした。
その『幽☆遊☆白書』の魅力の一つに、「主人公だけど、いつか敵に殺されてしまうんじゃないだろうか」とハラハラしてしまう怖さと緊張感があります。そんな主人公・幽助の“本当に死ぬかと思ったシーン”をご紹介します。
■作者・冨樫義博氏の仰天発言… 「主人公だからって安心してんなよ」
はじめに、作者・冨樫義博氏は、2012年に発行された『黒子のバスケ』オフィシャルファンブック内で実現した『黒子』の作者・藤巻忠俊氏との対談で、驚くべき発言をしています。それは、「漫画を描くうえでの信念というかポリシーは何でしょうか?」という質問に対する返答。
その質問に対して、冨樫氏は「『いつでも主人公を殺してやるぞ』という気構えですね(笑)」とコメント。さらに「『主人公だからって安心してんなよ』といつも思うようにしています。主要キャラだろうが、ここで殺したいから殺すと(笑)。(中略)要はマンネリにならないよう、いつでも今の安定を壊す気でいる、ということですね」と続けます。
なんとも恐ろしい発言をする冨樫氏ですが、たしかに、作中から伝わる緊張感は冨樫漫画の真骨頂でもあります。それはもちろん『幽☆遊☆白書』においても同様です。実際に、主人公・幽助にはいくつもの窮地が訪れます。
■戸愚呂・弟:「おまえもしかしてまだ 自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」
最初に迎える“死ぬかと思った”ピンチは、戸愚呂・弟との戦い。初めて彼と対決したのは、戸愚呂・弟がボディガードとして雇われたふりをしていた垂金邸でした。そのときは幽助が勝利したかのように見えたのですが、実はやられたふりをしていただけの戸愚呂・弟。彼はその戦いで幽助を気に入り、その後、幽助一味を暗黒武術会へと招待するのでした。
修業の末に強くなった幽助らは、暗黒武術会に出場。勝ち上がるたびにさらに強くなる幽助は、幽助の師匠・幻海から霊光波動拳を継承し、さらに幻海の死をも乗り越えて、決勝戦である戸愚呂・弟戦を迎えます。しかし……それでもなお、幽助の実力では戸愚呂・弟には叶わないことを思い知らされるのです。
戸愚呂は、そんな幽助に「元人間のオレの経験からみて 今のお前に足りないものがある……危機感だ」と幽助を観客席まで吹っ飛ばします。さらに続けて「おまえもしかしてまだ 自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」と追い詰めます。まるで、前述の冨樫氏の言葉を戸愚呂・弟が代弁しているかのようです。
絶望感漂う緊張のなか、幽助は無力感に苛まれます。さらに戸愚呂・弟は、幽助の潜在能力を引き出す目的で桑原の心臓目がけ、攻撃。そして、桑原が倒されたことによって、幽助は覚醒。「オレは…どこかであんたに憧れてた」と告白。一方で「オレはあんたと違う」と吐露する幽助は完全に迷いが晴れ、「あんたの全てを壊して オレが勝つ」と高らかに宣言。見事、戸愚呂・弟を打破するのでした。
■仙水:「彼は今 死んだ」
戸愚呂・弟を倒したあとに現れる次なる敵は、元・霊界探偵の仙水。幽助の前任だった仙水は、妖怪退治をしていくうちに、人間の存在こそが諸悪の根源なのではないか、という考えに変わっていきます。そうして、霊界探偵を引退。さらに、人間界を一掃するため、人間界と魔界を繋ぐ穴を広げようとします。そんな仙水の企みを阻止すべく、幽助らは立ち向かうのでした。
幽助らは、次々に立ちはだかる仙水一派を全て撃破していきます。そして、最終局面で仙水と対峙することに。いざ戦いが始まり、途中までは善戦する幽助ですが、仙水が聖光気なる闘気を身に纏うと、局面が一転します。その戦力差たるや、歴然たるもの。その場にいる誰しもが、天地がひっくり返っても幽助では仙水に敵わないと悟るのです。
幽助はそれでも捨て身の覚悟で抵抗しますが、仙水に殺されてしまいます。“死ぬかと思った”どころか、実際に死にます。そして残された飛影、蔵馬、桑原は激昂し、仙水に応戦しますが、三人合わせてもやはり戦力差は明らか。仙水は、現状をTVゲームに例え「妙な快感を覚える反面ひどく虚しくなる」と語るのです。
一方で、死体から霊体が出てこない幽助。そこで、とある新事実が発覚します。それは、幽助が“魔族の子孫”であるということ。そして、魔族として覚醒し蘇った幽助は、仙水と互角の力を携えて再戦に臨みます。最後は、幽助の体を乗っ取った雷禅(幽助の魔族としての父親)が仙水を倒す形にはなりますが、なんとか復活を遂げることができた幽助でした。
■正聖神党のボス:「お前が選べ…しかしそれは神の意志」
最後に、霊界で起きた宗教対立での一幕。武装教団・正聖神党は、霊界の人間約100名を人質に取り、霊界に対してある要求を突きつけます。それは、すでに人間界に馴染むようになった妖怪を人間界から追放し、妖怪が人間界に行き来できない結界を設置すること。もし、その要求に応えない場合、異次元砲なる兵器を使って人間界を攻撃すると主張します。
そこで、霊界探偵・幽助の出番です。正聖神党が占拠している霊界に潜入し、人質を救いながら正聖神党を捕えていきます。そして、異次元砲の作動を止めるボタンの前へ到着。三つあるボタンのうち一つが正解で、それ以外を押すと発射されてしまいます。正解のボタンはどれか、幽助は正聖神党のボスに問い詰めるのですが…。
ボスは幽助の尋問には応じず、自決。手掛かりはないまま、幽助は仲間を避難させ、自分だけボタンの前にとどまります。三分の二の確率で自分の魂もろとも人間界が爆破されてしまうという危機です。絶体絶命のピンチに、幽助は死を覚悟します。そして、直前で幻海に励まされ、決心してボタンを押すのですが…。結果は……なんとか三分の一を引き当て、セーフ。
――改めて振り返ると、冨樫氏は、敵と圧倒的な戦力差がある描写や、絶対に太刀打ちできない絶望感を表すのが得意な作家と言えます。そしてそれは、前述した冨樫氏の「いつでも主人公を殺してやるぞ」という、物語がマンネリにならないための気構えによって生み出されるものなのかもしれません。