「阪神快進撃に対する経済効果の悲観論」を分析する、庶民感覚に寄り添った東スポの記事が素晴らしい!?
『東スポWeb』が『コロナ前なら1000億円! 阪神“Vロードばく進”も経済効果に関西「総悲観」のワケ』なるタイトルの記事を配信していた。
我らが阪神タイガースが4月21日の巨人戦(東京ドーム)に2―3で敗れ、連勝は「8」で止まったものの、ここまでは投打がガッチリと噛み合い、2005年以来のリーグ制覇への予感がプンプンと、濃密にただよっている──とはいえ、現在は出口の見えないコロナ禍の真っ只中。平時なら1000億を優に超すと言われている阪神優勝の経済効果に対する悲観論が、関西を中心にささやかれている……みたいな内容である。
ここで普通のまともな(笑)新聞なら、どこぞの経済学者あたりを引っ張り出してきて、「従来なら期待できるはずのあの数字この数字がコロナ禍の影響によって吹っ飛んで、1000億が○%ほど下落するでしょう」といった、マクロな経済学に則った推計の数字を羅列するだろう。だが、東スポはやはり違った! もっともっとミクロな、庶民感覚に寄り添った視点で「関西における経済効果の悲観論」を語っているのだ。とりあえずは、東スポ記者が“地道な地ベタ取材”によって拾い上げてきた街の声を、以下に紹介しておきたい。
「2003年、05年に阪神が優勝した時はすごかったですよ。球場帰りの方々が次々に上機嫌でお店に来てくださいましたからね。優勝決定日には太客の方がお店を借り切って、大量のシャンパンを空けてくださいました」(大阪の北新地でスナックを営む男性)
「みんなでテレビで阪神戦の中継を見ながら、勝てば祝酒、負ければヤケ酒を飲んでいただくのがこれまでの日常風景。ですが20時までに店を閉めなければならないとなると、テレビ観戦も6回か7回で強制終了。これじゃお客さんが集まるわけがありません。(今年は)期待値の高いシーズンだったのに…」(阪神ファンが多く集う兵庫県内の居酒屋の店主)
普通のまともな新聞(笑)なら絶対に使用するはずもないワードの「太客」をそのまま引用、「勝てば祝酒、負ければヤケ酒」「テレビ観戦も6回か7回で強制終了」……取材に応じているヒトたちの容姿から表情までがクッキリと思い描けるような、じつに細かいディテールのコメントではないか。
「アンタが行きつけのお店で、たまたま店主から聞いた愚痴をそのまま記事にしているだけだろ!?」なんて疑念もなくはないけれど、桁数があまりに途方もなさすぎて今ひとつピンとこない億単位の経済分析よりも、少なくとも私には(仮に「行きつけのお店で、たまたま店主から聞いた愚痴」であっても)こうした名もない市民によるリアルな慟哭のほうが、その切実さもヒシヒシと伝わってくる。いくらヤフコメ欄で「飛ばし記事」だの「戯言」だの……と叩かれようと、私は断然そんな東スポの取材姿勢を支持します!
ところで! つい先日、『文春オンライン』が「東スポが社員約350人のうち100人をリストラする」というスッパ抜き記事を配信していた。「“紙神話”への頼りすぎ」や「JRAの場外馬券売り場がコロナによってしばらく閉じたことで、部数が激減」……などが経営悪化のおもな要因らしい。真偽の程度は定かじゃないが、この大規模なリストラによって、知人レベルの与太話や自身(のみ)の妄想を一本の記事にまとめあげる剛腕を持つ優秀な記者が東スポを去っていく“愚挙”だけは避けてもらいたい……と、心から願っている。