橋幸夫の「歌手活動引退」からあらためて考える! フリーランスから会社員まで…我々にとっての真の「引退」とは?

コラム

 

20代や30代の若い読者の皆さまにはあまりピンとこないような気もするが、歌手の橋幸夫(78)が10月4日、都内で記者会見を開き、80歳の誕生日となる2023年5月3日をもって「歌の道にピリオドを打ちたい」と、歌手活動から引退することを正式に発表した。

 
理由は「声帯の筋肉の衰え」であるらしい。『ORICON NEWS』によると、

 

 
「コロナが原因だと思いました。一昨年から声がガラガラし、ちょっと今までのステージと違うと感じました。ごまかしながらやってきましたが、歌は厳しくなるかなと思って耳鼻科にかかりました」

 
……とのこと。のどの専門の病院を紹介され、医師からは「(声帯の)筋肉の衰えがかなりきている」と宣告され、橋は「新型コロナウイルスによって歌唱頻度が激減したこと(=トレーニング不足)が影響した」と告白──もはや、低音を響かせようとしたら「声割れがする」ほどの状態なのだという。

 
「体調はそんなにわるくない」そうで、「再来年の引退まではコンサートをやらせていただきます」と意気込み、関係者は「(引退まで)全国160ヶ所を回る予定」とした。

 
ただし、よくよく聞いてみると……「引退」するのは、あくまで「歌手生活」のみで、

 

 
「芝居なんかはやりたい。とくに時代劇とかは」

 
……と、ポジティブな“今後”を語っている。

 
さて。ここまでを読んで、賢明なる読者の皆さまは、どのような感想をお持ちになったことであろう?

 
「引退するなら歌手だけじゃなく、いっそ芸能界から退いて(お金もいっぱいあるんでしょうから)悠々自適な余生を送ればいいのに…」

 
……みたいな意見もあるのではないか? しかし、私は橋幸夫の

 
「まだ身体がまともに動く箇所があるかぎり、一年…いや一日でも長く、一人でも多くのファンの方々に自分を観ていただきたい、喜んでもらいたい」

 
……といった、ある意味「未練がましさ」とも呼べる美学は、それはそれでとても素晴らしいと思う。

 
もしかすると「歌手」とは、“肉体の衰え”が「引退」へと直結せざるを得ない、どちらかといえば「アスリート」に近い職業なのかもしれない。けれど、役者は極論すれば車椅子に乗りながらでも、そういう役どころがある可能性だってあるわけだし、たとえば私のような文筆業も、脳と指一本さえが動くのであれば、臨終するまで「現役」を貫くことだってできる。

 
サラリーマンだったら「引退」を「定年」と解釈する発想もなくはないのだろう。60歳なり65歳なりで無事会社に奉公を終え、優雅なリタイア生活に入るのも、もちろんアリだろう。が、
 

「もうちょっとだけでもいいから、なんらかのかたちで社会に貢献したい!」

  
……との“承認欲求”が捨て切ることができないのならば、とことん「引退」を先送りし、もしくは一度表明した「引退」を臆面もなく何度も撤回し、私は日々をあがき続けたい……。

 

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