この世の中から「土下座」という日本の様式美が完全消滅してしまうのはチョッピリ寂しい…と感じてしまうのはコンプライアンス的にアウトなのか?

コラム

 

テレビ朝日系が元日と1月2日に放送した『芸能人格付けチェック! 2022年お正月スペシャル』と『夢対決2022とんねるずのスポーツ王は俺だ‼ 5時間スペシャル』の「土下座」を巡る対応の違いが、ネット上で話題を呼んでいる……という。

 

まず、『芸能人格付けチェック! 2022年お正月スペシャル』では、MCの浜田雅功が最終問題へと入る前に「(最低ランクの "映す価値なし" まで落ちてしまったお笑いコンビの)『見取り図』が土下座したら、(同様に "映す価値なし" まで落ちてしまったチーム)全員を(ワンランク上の) "そっくりさん" に戻します」と "特別ルール" を提案。むろん『見取り図』は迷わず土下座をするが、すると "二流芸能人" になんとか踏みとどまっていた『ダブルHIROMI』の郷ひろみが「(自分も)土下座、ダメですか?」と懇願。躊躇するチームメイトのヒロミに「やりましょう! ワンランクアップだもん。だって頭下げて済むんですよ!」と促し、ダブル土下座を……。さらには波瑠と溝端淳平、藤原紀香と観月ありさまでもが追従し、場は土下座祭り状態となった。

 

いっぽうの『夢対決2022とんねるずのスポーツ王は俺だ‼ 5時間スペシャル』では、その1コーナーである『リアル野球BAN』で「石橋ジャパン」(石橋貴明・原口文仁・山崎康晃・吉岡雄二・ゴルゴ松本)が「侍ジャパン」(千賀滉大・栗原陵矢・村上宗隆・杉本裕太郎)に5回表に逆転され、5–3で敗れた。通常だと、ここで敗者側の「石橋ジャパン」が延長戦の了承を得るため、全員が横並びで土下座するのがお約束なんだが、今回は石橋が「でも、テレビ朝日が土下座させちゃダメだって…。コンプラふねふねってのにひっかかっちゃうらしんだよ」と切り出し、挙句の果てには「お前ら(=侍ジャパン)がやりたいって言うならいいよ! どうなんだよ!」と開き直って延長が成立。結局は、8回裏にゴルゴ松本が見事サヨナラの一打を放ち、石橋ジャパンが7-6で逆転勝利した。

 

「土下座」が通年のシナリオにない番組に土下座が登場し、「土下座」が通年のシナリオとなっている番組から土下座が消えたことで、結果として二つの正月人気番組の「土下座」がフィーチャリングされた格好となったわけだが、はたして昨今のテレビ界では、石橋が言ったように「土下座は本当にコンプライアンスに引っかかる行為」なんだろうか? これら一連の土下座問題について論じる記事を配信していた『デイリー新潮』の取材に応じた某民放ディレクターは、こうコメントする。

 

近年、バンジージャンプやジェットコースターなどは要注意ネタとされています。番組側が無理強いしている、演者が本気で嫌がっている、そんな風に視聴者が見ると批判されるからです。同様に土下座という "罰ゲーム" も、要注意演出のひとつとされています。バラエティではパワハラに見せない対応が求められているんです。

 

まだ物事の分別がつかない子どもたちへの教育にもよろしくない……ってことなんだろう。ドラマの『半沢直樹』ならOKで、バラエティはダメ……という理屈も不思議でならないし、私からすれば、人になにかをお願いする際、素直に頭を下げない子どもより、石橋みたいに逆ギレして駄々をこねるクソガキのほうがずっとタチが悪いと思うのだが……(笑)?

 

Wikipediaによると「土下座」とは、

 

「日本の礼式のひとつで、姿勢は座礼の最敬礼に類似する。地面や床にひざまづいて深い謝罪や請願の意を表す場合に行われる」

 

……らしい。つまり、現在の日本においては、もはや "様式美" と化している "過剰なパフォーマンス" でしかなく、 "する側" と "される側" のあいだに生まれるのは「緊迫した空気のガス抜き的な安堵」と「失笑」のみである。

 

ちなみに、私はこの「土下座」というワードの字面も音感も大好き(=原稿に書くのが大好き)で、当然のこと "する" のも大好きだ。たとえば、必死に口説いている女子がディナーを終えて「そろそろ終電だから、もう帰るね」と切り出してきたとき、「お願い! あと30分だけ一緒にいて!!」と小雨で濡れたアスファルトに両膝をついて頭を地にこすり寄せている自分の姿には、一種のカタルシスのようなものすら感じてしまう……。

 

そんな一心不乱な真摯さのなかにも、どこかコミカルさがただよう最高のバランスを有する「土下座」が「コンプライアンス」という名の大波に飲まれてテレビから……いや、日本から消滅していくのはチョッピリ寂しい……と感じているのは、はたして私だけなのであろうか???

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