暴力描写に光る美しさ…それだけではない芸術性…90年代の北野武映画は素晴らしすぎる

コラム

citrus 文月

 

お笑い芸人・ビートたけしのもうひとつの顔である映画監督・北野武。手掛けた映画は、バイオレンスな描写が多い反面、 “キタノブルー” と絶賛されるような美しいカットも魅力的だ。今回は “世界のたけし” と言われる北野監督の90年代の3作を見ていこう。

 

 

■『ソネチネ』(1993年)

 

北野自身が監督、主演を務める本作は、沖縄を舞台にヤクザ同士の抗争が描かれたバイオレンス映画。1994年のロンドン国際映画祭、カンヌ国際映画祭で上映され、北野の名を世界的なものに広げた作品として後世に知られるようになった作品である。

 

暴力団・北島組の友好組織である中松組が、沖縄の阿南組と抗争になる。北島組傘下の村上組組長の村川は、若衆とともに中松組を救い出すことを北島組から命じられる。沖縄に到着した村川一行は、想像以上に阿南組の攻撃が激しく、一時中松組の隠れ家に避難することに。やるべきことがなく束の間の休息を楽しむ村川たちだが、その裏ではある陰謀が動いていた……。

 

2010年以降の北野映画ファンだと、『アウトレイジ』シリーズに知られる過激、かつエンターテインメント性溢れる暴力描写を思い浮かべる人もいるだろうが、本作はむしろ逆。ひたすらに静かでシャープな表現が満載であり、北野の芸術的な感性がフルに発揮された映画として評価されることが多い。

 

 

■『HANA-BI』(1998年)

 

『HANA-BI』は、ある刑事の壮絶な人生を描いた作品。本作は第54回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した。これは邦画では1958年公開の『無法松の一生』以来、実に39年ぶりの快挙だった。

 

余命いくばくもない妻を持つ刑事の西。ある日、凶悪犯を追い詰めるが、妻の病状が心配な西は、同僚の堀部の提案により見舞いに行くことに。そこで、妻の病状は芳しくないと担当医から聞かされた西は絶望するが、さらに堀部が凶悪犯から銃撃を受け、部下の田中が殉職してしまう。怒りのあまり西は凶悪犯を射殺し、刑事を退職。その後、妻のためにヤクザからカネを借り、日々を過ごそうとするが……。

 

病床の妻と同僚、部下の不幸から人生が変わった西。作中では、彼以外にも凶悪犯の事件によって、生き方、人生観が変わった登場人物は少なくない。西とまわりの人々の行く末が描かれた本作のラストは、北野映画屈指の名シーンなので要チェックだ。

 

 

■『菊次郎の夏』(1999年)

 

先に挙げたバイオレンスな2作とは違って、ロードムービーとなった『菊次郎の夏』。生き別れた母親を探す少年とチンピラ中年が交流を深めるひと夏の冒険劇だ。

 

正男は、東京の下町で祖母と暮らしている小学3年生。ある日、生き別れた母親の存在を知り、わずかな小遣いを片手に母親のいる愛知県豊橋まで会いに行こうと決心する。それを知ったスナックのおばさんが「ひとりで心もとない」と夫である菊次郎を同行させることに。しかし、菊次郎は競輪場へ行き、妻から預かった旅費だけではなく、正男の持つ小遣いまで手を出してしまう生粋の不良中年だったのだ……。

 

典型的なダメ中年と子どもの交流を描く本作は、バイオレンス映画が特徴的な北野作品とは一線を画す優しい気持ちになれる作品。久石譲作曲のメインテーマ「Summer」も印象的であり、まさしく夏に見たくなる名作だと言えよう。

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