【SNSで話題】観光客のマナー問題で「歩き食べ」禁止の動きに、食の専門家が厳しい意見
観光地での食べ歩きマナー問題についてSNSで話題になっていますが、国内外の食事情に詳しいフードアクティビストの松浦達也さんにお話を聞いてみると、「いまさら何を…」というお答えが返ってきました。
いきなり横道にそれますが、個人的には「食べ歩き」ではなく、「歩き食べ」と呼んでいます。「お店ホッピング」と混同しやすいことや、辞書的にも「食べ歩き」とは「土地の名物料理やおいしい食べ物を、あちこち食べてまわること(大辞林)」とあります。
そんな「歩き食べ」問題ですが、「いまさら何を」という話です。インバウンドにしても飲食店にしても観光客に来てほしいというのは、ひとえに観光地側の事情です。楽しみを最大化してアピールし客を誘致するのは当たり前の施策。その結果起きたことは誘致側が解決する課題です。
トラブルになり得る要素があるなら、そのトラブルをどう防止するかを懸命に考えるべきだと松浦さんは指摘します。
「客に来てほしい」=「観光客を楽しませたい」のはいいとしても「遠慮してもらう」=「楽しみを奪う」ことになるわけで、ずいぶんと都合のいい話だという気がします。
串のような歩き食べ前提の食べ物を出す店を許容しながら、商店会として回収の手段が講じられてないのは構造的な問題です。食べられる場所がないから人は歩き食べをし、ゴミ箱が使いやすいところにないからゴミが散乱するのです。
この数年「食べ歩き対応の食べ物を提供するようになったから町が汚れる」と言うなら、対策は「歩き食べで何かリスクのある食べ物を町として提供しないようにする」か、「町ぐるみで回収対策に乗り出す」の二択しかありません。
観光客が急増して対応に慣れていないとしても、「遠慮」という「制約」を客に要求するのではなく、まずインフラや仕組みを整えるのが先だろうという松浦さん。
例えば、オーストリアのウィーンには街角にソーセージスタンドがありますが、どの店もその場で食べられるようにカウンターが横についていてゴミ箱もその場に必ずあります。
日本のコンビニも、一昔前は店の前の駐車場に若者がたむろし、ゴミが散乱していましたが、十分なサイズのゴミ箱を用意し、店内に席を作ったらそうした光景はあまり見なくなりました。
大阪のたこ焼き屋だってそうです。店頭にスタンド的に食べられるスペースが用意してありますし、当然ゴミ箱もあります。
松浦さんは、「町、それも商売をする側の課題なのだから、各商店会や商店街全体で解決すべき問題」、としています。
例えば空き店舗や早じまいの店の軒を活用してインスタグラムの撮影スペースを用意すれば客はそこに滞留するだろうし、串ゴミが問題なら、串を標準化するなどして再利用を前提に各店前に「針山」のような専用の捨て場所を作ることで解決するかもしれません。
例えば錦市場ならお惣菜を買えば食事のような仕立てにしてくれる店もありました(閉店)。
こうした店を、町や自治体が作ってもいいし、そうした滞留できる店やスペースに対して補助を出してもいい。どうしてもスペースや予算的に無理なら、そういう食べ物は提供しないよう申し合わせるしかないでしょうね。
では、歩き食べの文化については、どうなのでしょう? 世界では…
「歩き食べ」自体はわりと世界中で行われていてNYのベーグルやイギリスのフィッシュ&チップスもビジネスマンが普通に歩きながら食べているシーンは洋画や海外ドラマでも頻繁に見かけます。
フランスでもパリジェンヌが歩きながらフランスパンをバリバリ食べるのは、知られた話ですよね。
一方、松浦さんによると、日本の大衆食文化の象徴である「居酒屋」は1700年代の中頃には確立されていましたが、日本人の日常に「歩き食べ」の文化はあまり出てこないといいます。
1700年代後半に「夜鷹そば」が登場してもどんぶりばちを持ち歩くわけにはいきません。のれんで手をふいて屋台を後にする鮨だって歩き食いは一般的ではなかったでしょう。
その頃に生まれたと言われる今川焼きならワンハンドスイーツとして食べている人がいるかもしれないと考え、発祥地とも言われる当時のお江戸今川橋の図会を見てみたのですが、歩き食べは確認できませんでした。
ただし「講」と言われる、山岳詣でをする庶民の寄り合い旅行の場合、茶屋周辺などで歩き食べをしていた絵は描かれています。
高輪大木戸の大山講と富士講(天保年間(1831-1845)※国会図書館では「富士登山諸講中之図」)を見ると、右のほうに歩きながらスイカを食べている人がいたり、左のほうにもミカンか何かをかじりながら歩いている人がいます。
特に時間に限りのある観光客が、短時間でも楽しめる歩き食べをするのは、テイクアウト店がある限りあたりまえのことなので、ゴミその他のリスクが不安なのであれば、前出のように「滞留して食べられる場所を作る」「ゴミの散乱や衣服を汚すリスクのある食べ物を売らない」という風に販売側がコントロールするのが当然、というのが松浦さんの見解。
「服につくのが問題」なら店に対して「少し接触した程度で服が汚れるようなリスクの高いものを提供してはならぬ」という解決策もありでしょう。
実際、錦市場など混雑するのがわかっている場所だと「服を汚すような串を出すのが悪い!」と外国人から店側の賠償責任を問う訴訟が提起される可能性だって笑い話では済まされないかもしれません。