「付き人の過酷さ」を描いた漫画が話題らしいが…過去実際に遭遇した "過酷すぎる" 境遇の付き人について回顧してみた
『大物女優の付き人は、ほぼ奴隷の日々でした。』(原作:僕田友・漫画:西つるみ/ぶんか社)という漫画が、チョッピリちまたで話題になっている……らしい。そういうことを『現代ビジネス』が書いていた。原作者の僕田さんの実体験をつづった作品で、あらすじは、
俳優志望の僕田さんは、養成所を卒業し、晴れて大手芸能プロダクションの所属となった。だが、まだ俳優としての仕事は無く、バイト漬けの毎日──そんなある日、マネージャーから呼び出された僕田さんは、同じ事務所に所属している某看板女優の付き人を半強制的に任されてしまい、そこから地獄のような日々が待っていた……。
……みたいな内容……なのだそう。ちなみに、『現代ビジネス』に掲載されていた同漫画の紹介記事タイトルは『【実録】大物女優の「付き人」になったら、給料が「信じられない額」だった件』である。「信じられない額の給料」って……一体いくら程度だったのか? “正解” を明かしてしまうと、その額面は「10万円」であった。いつの時代の「実録」なのかは定かじゃないが、私は率直なところを申せば、
「え! そんなにもらえるの!?」
……と、びっくりした。私がまだバリバリと現場に出て雑誌企画の撮影などを仕切っていた20年も30年も前のころは、徒弟制度的な雇用関係が根強く残っており、「付き人」として働いている人たちは「月3〜4万円」といった、それこそ “お小遣い” のようなとんでもない薄給でほぼ24時間酷使されまくる……なんてケースがザラだったからだ。
私の周囲に多かったのは、有名カメラマンやスタイリストの「付き人」で、ギョーカイ内では「アシスタント」だとか「助手」だとかと呼ばれていた。
“師匠” から「アシの◯◯です」と紹介されることもなく、他のスタッフに名前を覚えてもらえることもなく、彼ら彼女らはただ黙々と大量の機材や衣装・小物を持ち運びしては、休む間もなく予備のフィルム(※このころデジカメはなかった)をセッティングしたり、タレントさんが脱ぎ捨てた洋服をたたんだりしていた。
「トロトロしてんじゃねーよ!」「マジ使えねえな!」……と怒声がスタジオに響き渡ることもしょっちゅうで、蹴りを入れられたりグーで殴られている男性アシスタントも、たまにいた。
昼食休憩中、3人くらいのカメラマンアシスタントさんが地べたに新聞紙を敷いて仕出し弁当を食べていたので、私が「テーブル空いてますよ」と勧めたら、 “師匠” に「ゴメちゃん、甘やかさないで! アイツらはあそこ(=地べた)で充分だから」と諭された。「空気のごとく場を円滑に回すよう努めること」が、彼ら彼女らの存在意義であったのだ。
当たり前の話、家賃だけでも10万円近くかかってしまうこの大都会・東京において「3〜4万円の月収」だけで食っていけるはずもない。一度、そのような素朴な疑問を、当時「カリスマカメラマン」として名を馳せていた某氏にやんわりとぶつけてみたら、
「オレのテクニックを盗ませてやってるんだから、ホントはオレが授業料もらいたいくらいだよ! 逆に(?)3万ももらえて、たまにメシまで食わせてやってんだから、むしろラッキーだよ!!」
……と、ピシャリ返されてしまった。まったく答えになっていなかった。けれど、さすがにそこらへんの経済事情は “こき使う” 側もなんとなく理解しているようで、大半の “師匠” たちはアシスタントを雇う際、「都内に実家があって家賃を払う必要がない人材」に “ターゲット” を絞っている……と、後々耳にした。
もちろん、こうした一昔も二昔も前のエピソードを持ち出して、「最近の若者は辛抱が足りん!」などと叱咤するつもりはサラサラない。法律的にも道義的にも現在ではあり得ない……いや、あってはならないことである。ただ、抗う手段も知らぬまま苦労に苦労を重ね続けてきた “先人” たちの礎(いしずえ)が、今日(こんにち)の労働条件の改善へとつながっているという事実だけは……若い世代の皆さまにも、願わくば知っておいてもらいたい。